親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。
仕事や趣味などに気兼ねなく取り組むことができるその人だけの空間、ワークスペース。その人の考え方や行動様式が、色濃く反映される場所でもあります。「ワークスペースの美学」は、自分自身の心地よいライフスタイルを実践している方にご登場いただき、そこに至った経緯や魅力、結果として得られたものなどについて伺うインタビュー連載です。
10回目のゲストは、YouTubeチャンネル「ラムダ技術部」を運営するラムダさん。チャンネル登録者数は85万人を超え、理系科目の魅力をわかりやすく、そして面白く伝える動画が人気を集めています。
コロナ禍をきっかけに東京から長野市へ移住し、現在は撮影スタジオを兼ねた仕事部屋で、動画制作をはじめとしたさまざまな活動に取り組む日々。室内の情報量を最低限に抑え、すっきりと整えられた空間は、「考える」「撮る」「つくる」に集中できる環境として、少しずつ形にしてきたそうです。
生活感を抑えながらも、使いやすさと居心地の良さを両立させたその空間づくりには、どんな工夫が詰まっているのでしょうか。お部屋のこだわりについて、ラムダさんに伺いました。
「ワンクリック詐欺」動画から始まった、YouTubeチャンネル
—まずラムダさんのYouTubeチャンネル「ラムダ技術部」について教えてください。どのような経緯で動画投稿を始められたのでしょうか。
高専に在学中のとき、授業で学んだプログラミングの知識をアウトプットしたいと思い、ニコニコ動画に「ワンクリック詐欺を作ろう」という動画を投稿したのがきっかけです。この動画のコンセプトは「ワンクリック詐欺の仕組みを実際につくって知ることで、何をしたら危険なのかを知ろう」というもの。それが思いがけず伸びたことで、視聴者からの反応をもらえるのがやみつきになり、いつの間にか今に至る……という感じですね。

ソフトウエアエンジニアであり、Youtubeチャンネル登録者数85万人の「ラムダ技術部」も運営するラムダさん
—「お菓子の家に耐震工事を施す」 「呼び込み君をアンプ化」「肩たたき券の不正利用対策」など、独自の切り口で動画投稿をされています。動画のアイデアはどのように生まれるのですか。
「ラムダ技術部」は教育を面白くしたいという思いで活動しています。例えば二次関数をそのまま解説しても退屈ですよね。どうすれば視聴者が「見たい」と思ってくれるのか、切り口や導入にはいつも頭を使っています。アイデアが浮かぶのは本当に突然で、人と話している時もあれば、一人で歩いている時、ふと耳に入った他人の会話がヒントになることもあります。
10年近くYouTubeを続けてきて感じるのは、やっぱり「自分がわくわくするかどうか」が一番大事だということです。自分自身が面白いと思えないと続かない。最終的な基準は、そこに尽きる気がします。
—最近、特にわくわくするテーマはありますか。
理科や数学と、日常生活が直接つながる瞬間が一番嬉しいですね。工学寄りの内容であれば実用性が高いものも多くネタを見つけやすいのですが、最近は、もっと根本的な数式や原理――例えば「この方程式が解けると、どんな嬉しさがあるのか」といった、抽象的なテーマをどう面白く伝えるかを考えています。そうした切り口が見つかったときに、すごくわくわくします。
東京から長野へ、移住で実現した理想の環境
—2021年に長野市に移住されたそうですね。その経緯を教えてください。
学生時代に大阪の企業のインターンに参加したのですが、満員電車を経験して「絶対に電車通勤はしない」と心に決めたんです。なので、大学卒業後、エンジニアとして東京の会社に就職が決まった際には、高額な家賃を払って都心のオフィスまで徒歩圏内の部屋を借りました。
ところが入社早々にコロナ禍となり、リモートワークが中心で、年数回しか出社しない状況になってしまったんです。ほとんど出社しないのに高い家賃を払い続けることに疑問を感じ、移住を考え始めました。
長野市を選んだのは、大学時代を過ごした場所で土地勘があったからです。馴染みのある街だったことが決め手になりました。
—再び長野に移住してみて、暮らしに変化はありましたか。
まず家賃が下がって部屋が広くなりました。東京では動画撮影のスペースが十分に確保できなかったのですが、広い部屋になって撮影がしやすくなりましたね。
長野市の都市部なら買い物にも困りません。それでいて、ちょっと自転車を走らせれば見晴らしの良い場所に行けるし、軽い山登りもすぐできる。過密でもなく過疎でもない、ちょうどいい環境だと思っています。

リビングをワークスペースとして活用
動画制作に最適化されたワークスペースの工夫
—スッキリしていて生活感があまりないワークスペースですね……!
はい、意識してそうしています。文字情報が多いと集中しにくくなるので、出しっぱなしにせず、モノはすべて扉付きのキャビネットに収納しています。空間設計に関して「本当に必要な情報だけを強調し、それ以外は視界に入れないことが望ましい」といった説もあるので、それを参考にしています。
また、この部屋で動画を撮ることも多いので、いつでも撮影できるように、生活感を抑えた状態を保つようにしています。

コンパクトなキャビネットに、本や書類、撮影道具などを収納
—ワークスペースで特にこだわっているアイテムはありますか。
実は意外となくて……。ちょっとずつ改善を繰り返して、そろそろ満足してきたというところですね。配線にはこだわっているかもしれません。足を伸ばした時に配線にぶつかるのが嫌なので、しっかり整理をしています。

ごちゃつきがちなPC周りの配線は、ケーブルカバーでスッキリとまとめてある
—壁一面の黒い壁紙、とても印象的ですね。こちらも動画撮影上の工夫でしょうか。
iMacの内蔵カメラで自撮りの動画を撮ることがあるので、部屋のレイアウトを決めるときに、背景に壁がくるよう調整しました。
ただ、壁が真っ白なままだと物足りなく感じたので、貼って剥がせる壁紙を試してみたところ、想像以上にしっくりきたので使い続けています。

壁にはアイデア出しや動画で活用されるホワイトボードも
—動画編集や作業はこの自宅兼オフィスでされることが多いんですか。
「椅子ってこんなに違うんだ」オフィスで衝撃
—ラムダさんが座っているのはオカムラの「バロン」ですよね。オカムラのワークチェアを選んだきっかけは?
会社のオフィスでオカムラのワークチェアを使っていたのが、最初の出会いでした。当時、自宅ではものすごく安価な椅子を使っていて、特に不便は感じていなかったんです。でも、オカムラの椅子に座った瞬間、「こんなに違うのか」と衝撃を受けました。それまで意識していなかった椅子の重要性に、初めて気づいたんです。
エンジニアという職業柄、長時間座りっぱなしになるので、先輩たちからも「椅子は早めにちゃんとしたものを選んだ方がいいよ」とよく言われていました。実際、腰や肩を痛めている人も少なくないんです。
そうした実感や助言が重なって、「これは購入する価値があるな」と思うようになり、2021年に移住したタイミングで、思い切って導入しました。

—数あるワークチェアの中で、なぜ「バロン」を選ばれたのですか。
購入前に実際に座って試すことはできなかったので、以前オフィスで使っていた椅子の感覚を思い出しながら、オカムラのホームページでスペックを比較しました。
オフィスにあったのは「シルフィー」と「サブリナ」でしたが、最終的に「バロン」を選んだのは、リクライニングを細かく調整できたからです。自分の体に合わせられるのが魅力でした。また、背もたれがあまり高くないデザインなので、部屋を圧迫せず、空間が広く見える点も決め手のひとつでした。
—素材やデザインの面では、どんな点を重視されましたか。
オフィスには、背もたれがメッシュで座面がクッションのタイプと、背もたれも座面もメッシュのタイプの、両方がありました。その中でも、自分は全体がメッシュの方がしっくりきたんです。ハリのあるメッシュ素材で、浅く座りがちな自分の姿勢にも合っていました。一体感のある座り心地が気に入っています。
カラーは、デスクの脚に合わせて、ボディーカラーをブラックに。パソコンにシルバーが使われているので、フレームカラーはポリッシュ。この2色で統一すれば、視界に入る色数を絞れますし、かっこよくなるかなと。

—お部屋を見渡すと、椅子が「バロン」だけのようですが……。他に座る場所はあるのですか。
バランスボールも大学の研究室にあったものと同じものを買って導入していたんですが、なんだかんだ使わなくなってしまって、今は空気が抜けているくらいです。カウンターで立って作業することもありますが、微妙に高さが合わないので、結局「バロン」に落ち着くんですよね。このデスクで食事もしますし、家にいる時はほぼここにいます。ソファーもテレビもない部屋なので、本当にこの椅子が生活の中心になっています。
目指すのは、理系の学びをもっと面白くすること
—より良いワークスペースを目指す読者へのアドバイスをお願いします。
自分もいろいろ試してみて、結局合わなくてやめたものがたくさんあります。例えばモニターアームも、安いものだと安定しなくて、結局良いものを買い直しました。自分が心地よいと思うものを少しずつ試して、試行錯誤することが大事だと思います。

—では最後に、今後挑戦してみたいことについて教えてください。
正直、これまでの活動は成り行きに近いところもあって、明確な目標があったわけではありません。でも、10代の頃からずっと思っているのは、「理系教育をもっと面白くしたい」ということです。
自分は工学を専門にしていて、理系の面白さに惹かれてその道に進みました。ただ、周りを見ていると、同じように楽しんでいる人は意外と少ない。だからこそ、理科や算数といった身近な科目を通じて、もっと多くの子どもたちが工学に関心を持ってくれたらと思っています。
今は動画という手段で発信していますが、今後はそれに限らず、リアルな場づくりや、テクノロジーを活用した新しいアプローチにも挑戦していきたいと考えています。
取材・執筆:筒木愛美 撮影:河谷俊輔 編集:モリヤワオン(ノオト)

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